東京地方裁判所 昭和28年(ワ)5842号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は、被告会社は訴外永井敏夫の使用者として、右永井が事業の執行につきなした本件手形振出により原告に加えた損害を賠償すべき責あり、と主張し、被告会社は右永井の本件手形の振出は違法行為であり事業の執行につきなされたものでないと抗争した。判決は右永井の本件手形振出は行為の外形上職務の範囲内の行為と見ることができるという理由で原告の請求を認容した。(なお、原告は本訴第一次の請求原因としては永井に手形振出の代理権ありと主張したが判決はこれを否定した)曰く、
「被告会社は経理課会計課というような部課の区別がなされて居らず、永井は主として経理事務を担当していたもので係員中では年長であつたので、外部との折衝の便宜上経理課長の名称を使用することを許されていたに過ぎないことを認めることができるが、右事実のみでは永井の代理権を認定するには足らず、その他に右永井が被告会社の代表者から委託を受けて対外的に被告会社を代理しうる何等かの代理権を有していた事実についてはこれを認めるに足りる証拠はないから、代理権の存在を前提とする原告の請求は失当である。……中略……
右永井は被告会社の経理事務を担当し、被告会社の支払について銀行との交渉に当つており、小切手帖、入金帖等をも保管して被告会社の金融面の事務をも担当していた事実を認めることができる。然らば、右永井の本件手形振出行為は前認定のように第三者の利益のためなされたもので右永井の職務行為としてなされたものでないけれども、手形の振出行為は右認定の永井の職務の性質上通常なされる行為であり、外形上はその職務の範囲内の行為と見ることができるから、結局本件手形振出行為は永井の使用者たる被告会社の業務の執行につきなされた行為と解するのが相当である。」